摩訶不思議な体験。
長く生きてきて、演劇も沢山見てきたが、今回非常に珍しい経験をした。というのも、先日香川でも西の方で余り訪れる機会の無いホールで見たものを、昨日はレクザムで観劇。キャストも舞台美術も勿論ストーリーも音楽もセリフも何もかも同じものだったので、このセリフの次はあれだと分かっていて見たものだ。結論から言うと、全く同じ物が、まるで違う舞台に見えたということに驚いたというわけ。
最初に見た時は申し訳無いが、居眠りする有様で、笑うべきところが寒い感じだった。ダンスももったりしていて、この程度ならローカルの劇団でもやれる、と思ったほど。当然ながら客も反応が薄く、拍手も大して湧かず、、、、。はるばる出かけたものの、あっちゃ~てなもんだった。この地域の偉い人の長口上を聞いていて、余程文化が低い土地柄なのか?と思ったが、どうやら初めてミュージカルなんて見ました的な人も何人かいたらしい。しかし、であればあるほど、この手の舞台は受けるはずだ。音楽はいずみたく、だし、50年も上演している題材で、一般受けする内容。ところがあの日、なぜか盛り上がらず、昨日同じ物を見ようかどうしようかと迷った程だった。体調もイマイチで、雨もケッコウ降っていた。でも、次回作のポスターを貰ったり、色々資料を貰っておく用事もあり、お嬢が運転するというので、雨の中を一緒に出かけたのだった。
流石に高松の公演は客が多く、二階席で見たのだが、なんということ!先日のものとはまるで別物。役者全体にPASSIONが感じられるし、観客の反応に応じて一緒に盛り上がっていく。観客も慣れていて、ここぞという箇所で大きな拍手を送る。その拍手に応えるようにダンスにも迫力があり、歌も明らかに前回とは違う。特にソリストの歌が感情移入されていて、思わず涙が、、、。おおお、これぞ生の舞台の面白さ。
行く前にこちらの体調を心配して無理に行かなくても、、、とブツブツ言ってたお嬢に、「役者が全員1㎝前に出たら、それだけですっかり変わる筈。それをこの目で確かめたいから。」と言いながらだったが、結果その通りになった。
特に笑いを取る場面がもの凄く成功して、客席の笑い声と拍手にまるで別人の様に演じていたお巡りさんに扮した役者。ロビーで並んでいた彼に、思わず近寄ってしっかり目を見て、「素晴らしい演技でしたね。前回よりとっても楽しみました。」と声を掛けると彼も嬉しそうに御礼を返してくれる。そこに並んでいた役者さん達に一様に今日は良かったと告げると、なんとなく複雑な表情を受けベながらも笑顔だった。彼らが一番よく分かっているはずだ。
ま、物好きにも同じ物を数日後に見るという珍しい体験は、こうして想像以上の良い結果で終わり、帰宅してから一人ビールで乾杯。体調が悪かったのもどっかに行ってしまった。良い舞台にはこうした薬のような効果が必ずある。
思い出すのは、ちぇちの練習。特にゲネプロの時には口を酸っぱくして、「みんな、1㎝で良いから、今より1㎝前に出て!」と檄を飛ばしていた。全体が1㎝動くとそれはマクベスの山のような効果がでる。長くやって来て、それだけは自信を持って言えたのだ。
懐かしいなあ。あの頃は元気だった。
心残りだったのは、この体験を前回一緒に出かけた友人達に味わってもらえなかったことだ。一回分の会員券で二回見られるという特典があったんだけどねえ、、、。何だか申し訳無い。雨で無く、自分も元気だったらお誘いしたんだけどねえ。無念。