中学時代の友人が永く岡山で生活していたが、奥方が亡くなって生まれ故郷の実家に帰り、施設の母を時折見ながら地域の活性化の為にいろんな事を始めたようだ。児童向け英語教室やら人生相談やら図書館やら、他にも色々計画があるようだ。元々教育者で、人に物事を教えたいほうだ。納得の暮らしぶりだなあ~と思っていた。
我が母も知っている人なので、今日はお天気も良いから施設から連れ出して彼の元へと出かけた。
そこで面白い話しを聞く。
彼が、新鮮な気持ちで地域の子供達中心にボランティアを考えて、兎を飼ってみたり、庭先に目を惹くような人形を置いてみたりして、道行く子供達に声を掛けていたようだ。
このご時世、昔とは全く違ってそのあたりも新興住宅地と化していて、彼の知らない顔ばかりになっているそうだ。
ある日、ちょくちょく来る子供の一人が、「おじちゃん、不審者なん?」と聞いてくる。「学校で全員集めてこの頃不審者が出ているから気を付けるようにって、言われたで?」
それを聞いて合点したのは、近頃良くパトカーがこの辺を巡回しているな~ということ。なんのことはない。それは自分を見張っていたということかと初めて分かって、慌てて学校と警察に弁明に出かけたという。曰く、「私は仮にも学校長までした男です!」
これには笑った!
笑ったが、これは実は笑い事ではないのだろうと思った。知らない人から声を掛けられる事もなく、ましてやその人の家に招き入れられるなんてこともなく、近頃の子供達はみんな大人を見たら誘拐犯と思え、てな教育を受けている。そして、それが普通だと、一般の大人達も思っているから、知らない子供に声を掛けることもしなくなっている。昔とはえらい違いだ。私なんか、母の話だと引っ越しの度に居なくなる子供の私を捜し回るが、大概はその辺のおばちゃんの家に上がり込んでお菓子やお茶を、時にはご飯までもらっていた、と言う。
この元校長先生も、自分が子供の頃はそうだったわけだ。勿論職場である学校でも、子供の顔を見れば「こんにちわ」の挨拶はしていただろう。だから自分は違和感なく声を掛けていたようだ。
しかし、確かにご近所の知らない人からは変人と思われていただろうことは想像できる。
彼の職場の最後は教育委員会で終わっているが、事実が分かった時のショックは相当なものだったろう。
にも関わらず、申し訳ないがおかしくておかしくて、笑い続けた。
そしてもう一つ。
彼が少し前に母親を施設から連れ帰った時、丁度兎を見に来ていた子供がいたようだ。するとその母上の第一声が、「あんたの隠し子?」と真顔で言ったそうで、思わずのけぞったと言う。
その母上も、他人の子供が自分の家の庭に当然の様に居ること自体が飲み込めなかったようだ。
お前もかブルータス、状態だったというわけだ。
イヤハヤイヤハヤ。人間関係の希薄になった現代の笑い話だ。